高42期 定金 伸治

高42期

定金 伸治

-作家-

2020/10/20

「卒業生からのメッセージを」ということで、ご依頼をいただきました。ただ、ぼくには高校時代の記憶というものがあまり残っていません。部活にも参加していませんでしたし、授業中はずっと、遠い世界の他愛もない空想ばかりをしていました。文化祭では、点呼だけとっておいて、一日中ひとけの無い所で文庫本を読む、などということもしていました。古ぼけた土鍋の中ですごしているような生活だったように思います。とはいえ当時は、このまま何ごともなく静かに生きていければいいな、とも思っていました。そんな日々の中で書きためていた文章の塊が、その後に作家として世に出るきっかけとなるのですから、わからないものです。今の在校生も、ひとりひとり違った十代のすごし方をされていることと思います。張りと彩りのある学生生活を送っているひともいるでしょうし、そういう生活に憧れているひともいるでしょうし、諦めているひともいるでしょうし、そもそも興味がないひともいるでしょうし、おびえているひともいるでしょう。ただ、そうした感じ方の違いを責められ罵られているひとは、生野高校の中では、まずいないのではないでしょうか。生野高校の校風は、違いを強制排除しない広さにあるのかもしれません。土鍋の中で生きているような人間も静かに見守ってくれるような、そうした校風のおかげで、ぼくは作家として生きはじめることができたようにも思います。


Profile
定金 伸治


作家。河内長野市出身。
生野高校卒業後は、京都大学工学部に進学、京都大学大学院工学研究科修士修了。
おもな著書には『ジハード』(星海社文庫・集英社文庫)『ユーフォリ・テクニカ』(中央公論新社ノベルズ)などがある。