高19期 浜中 幸雄(二上 剛)

高19期

浜中 幸雄(二上 剛)

-作家-

2020/10/20

私は70歳、2回しか同窓会に出席していない。3回目も行くつもりでいる。1回目、卒業して50年も過ぎるので、知らない人ばかりで誰も話し掛けてくれず、やっぱり来んかったらよかった、と寂しく帰ることになるだろうと思いつつ参加した。反対に大歓迎してもらったのだ。そもそも変わり者の私は昔から友達もおらず、別に寂しくもなくただ柔道していればよかった。高校3年間は柔道の記憶しかない。「久し振りやんけ、浜中どうしとったんや?」「いやぁべつになんも」、「飲めるんやろ、飲めや」「うん」、「あれからもずっと柔道してたらしいなぁ」「うん」、「強なったんかいな?」「うん」、「……浜中は昔から喋らんかったけど、今も変わってないな」「うん」。始まって30分もすれば宴たけなわになった。「浜中君!  みんなみんな、浜中君やでー」おばちゃんの大きな声がした。声の方を見るとおばちゃん4人こっちへ来る。「どないしてたん。今回来るって聞いてたから楽しみにしてたんや。元気そうやんか」4人は近所の奥さんらとそっくりだった。「わたしらの憧れの的やってんよ」「おおきに」、「せやせや、昔から無口やったわ、ケッケッケッケッ」「うん」、私はどう返事をしていいのやら分からず顔面真っ赤にして、うんと言った。新聞に載っていた川柳を思い出す。“君付けで  呼んでもらえる  同窓会”「こらオモロイ、俺が中心や。これが友達いうもんか。こんな俺を持ち上げてくれよる。嬉しい嬉しい」私は有頂天になり愛想を振りまいた。否、振りまいたつもりになった。100人近い人たちが来ている。100人がそれぞれ中心になっている感じがした。一人が喋り99人が聴いているのではなく、それぞれが聞き役話し役である。これはかなりレベルの高い集団だなと痛感させられた。何を言っても言われても怒らない集まりなのだ。歩こう会とかゴルフ会とか暑気払い会とか、それに花見の会もある。忖度する者もされる者もいない。桜は桜らしく咲き、ゴルフに誤魔化しはない。個人的に飲む機会もでき、友達というものの有り難さ、楽しさが70歳になって分かってきた。柔道部の者と飲んでいた時の事、私は生高の現役柔道部員なら一番強い者にでも勝つと言った。皆、バカにしたように「アホなこと言うな。負けるに決まってるやないか。怪我さされるぞ」と言って大笑いした。誰一人信じない。「それやったら、生高の柔道場へ行ってやったろやないか」ということに決まった。私はホラを吹いているのではなく本当に勝つ自信がある。負けると見るのが常識だが、私は常識はずれの人間である事を彼らは知らない。結果は皆さまに報告するつもりだ。19期の仲がいいのは幹事さん3人のお蔭である。皆、分かっている。いつまでもお元気で幹事をして頂くことを願ってやまない。因みに会長の平山さんは野球部で当時部員2人しかいなかったらしい。キャッチボールばかりしていたとか。


Profile
二上 剛(ふたかみ・ごう)


1949年生まれ。高校卒業後、大阪府警の警察官となり、某警察署の暴力犯担当刑事を務める。定年退職後、『黒薔薇 刑事課強行犯係 神木恭子』(受賞作『砂地に降る雨』を改題)で、第2回本格ミステリーベテラン新人発掘プロジェクトからデビュー。本書は受賞後第1作となる。